研究から分かる穀物の効果

稲・麦・あわ・きび・豆などの穀物は、日本古来の伝統的な食生活で多く利用されています。今回は、穀物という広い括りで、穀物の効果や効能に関する研究結果を一緒に掘り下げていきたいと思います。

質の良い炭水化物としての穀物を採る効能

皆さんは炭水化物についてどういうイメージがありますか?「糖化」という言葉から、炭水化物そのものをかなり毛嫌いしているかもしれません。

しかし、炭水化物にはうつ病やは不安障害を抑制するという研究があります。アーカイブス・オブ・インターナル・メディシンで行われた研究では、炭水化物は脳内物質幸せホルモンで知られるセロトニンの分泌を促進することが判明しました。1日当たりの炭水化物摂取量を20~40グラム(茶わん1杯の半量)に抑えた生活を1年間続けた被験者は、炭水化物を十分に摂取したグループに比べて、よりうつ病や不安障害、怒りを経験する結果となりました。

ハーバード大学で行われた研究では、正しく炭水化物を摂った結果、全く摂らなかった人たちよりも体脂肪が低下したと言います。

炭水化物を摂ることを気にしている方は、全粒穀物の摂取を試みてみましょう。

「全粒穀物:エネルギー源に変換されるまで、体内でよりエネルギーが必要になるため、精製穀物のように瞬時に消化吸収できない。つまり、おなか持ちがよく満足感が得られ、食べ物の欲求を抑えやすい。100パーセント全粒穀物であれば、1日当たり3杯まで。これは、50グラムの生パスタ、50グラムのオートミール、パン1切れに値する。」
ウィメンズヘルス(2018)「むしろ食べるべき!? 正しい「炭水化物」との付き合い方」Yahoo!ニュース

炭水化物を抜くようなダイエットで、慢性疲労気味になったり、ストレスを貯めていては、逆に健康に害になってしまいかねません。全粒穀物を幸せホルモンを分泌するセロトニンを全粒穀物でしっかりと摂りましょう。

穀物には抗がん効果成分が多く含まれるとする研究

『がん検診を信じるな~「早期発見・早期治療」のウソ』の著者であり、医療問題を中心に取材執筆活動を続ける鳥集 徹(とりだまり とおる)氏は、全粒穀物に関する研究結果を考察し、以下のような言及を行っています。

玄米菜食的な食事療法に期待する研究者は少なくない。抗がん効果があるとされる成分がたくさん含まれているからだ。たとえば玄米雑穀や海藻類には、老廃物の排泄を助けるビタミンやミネラル類が豊富だ。

玄米菜食を支持する次のような研究結果もある。米国で乳がんと診断された2600人以上を対象に追跡調査を行った結果、果物、野菜、全粒穀物(精白していない穀物)、鶏肉、魚類を多く食べている人は、精白穀物、加工肉、赤肉(牛や豚)、デザート、高脂肪乳製品、フライドポテトを多く食べている人に比べて死亡率が低かった。また、乳がん生存者を対象にした別の米国の研究でも、野菜や全粒穀物を多く食べている人の死亡率は、そうでない人に比べて40パーセント以上低かったという。
鳥集 徹(2018)「がんを防ぐために必要な12のルール」文春オンライン

玄米は白米に比べ、消化しにくい点に注意が必要で、「がんの術後や治療中は、胃腸の機能が弱っているため、玄米を食べて嘔吐や下痢を起こしたり、栄養状態が悪くなったりする」とも述べています。困ったときはバランスを考えましょう。

穀物と腸内細菌の研究

私たちがご飯を食べるとき、口で食べる、喉を通す、胃で消化する、そういったイメージを描きがちですよね。ここで、お伝えしたいのが微生物学・免疫学の専門家が推奨する「マック食材(腸内細菌の食べ物)」という考えです。

つまりは、「私たちの食べ物を、私たちの腸の中にある細菌が食べる」という感覚です。

「私たちの腸内細菌は絶滅危惧種のリストに載っているのだ。(中略)生活習慣や食習慣が初期人類に近い他の人類集団は、アメリカ人より多様な腸内細菌をもつ。いったい、なぜなのか? 過剰に加工された欧米の食事、抗生物質の乱用、殺菌が進んだ家屋などによって、腸内の住人はその健康と安全が脅かされているのだ。

「マック」を含む代表的な食材は、全粒穀物、玉ねぎ、リンゴ、キノコなど。最近では小麦の外皮部分にあたる小麦ブラン(小麦ふすま)やスーパー大麦(バーリーマックス)もマック食材として注目されています。」
田邉愛理(2018)「腸科学の第一人者が教える、腸内細菌が喜ぶ食材」MYLOHAS

腸内細菌の働きによって、代謝・消化・吸収の力が変わります。年齢と共に体内酵素量は減っていき、多様な腸内細菌をきちんと取り入れることで、私たちは、取り入れた栄養や行った運動の効果を高めることができるのです。

穀物と糖尿病の研究

穀物と糖尿病に関する研究は数多くあります。米国ハーバード大学公衆衛生大学院が約16万人を18年間追跡した調査では、全粒穀物が多い人では2型糖尿病の発症リスクが最大で35%低下することが判明しました。

スウェーデンのチャルマース工科大学やデンマークがん学会研究センターでは、全粒穀物を食べている人では2型糖尿病の発症が少ないという研究が発表されています。

デンマークの食事・がん・健康コホートに参加した50~65歳の男女5万5,465人のデータを解析した結果、全粒穀物を毎日50g(1日に3皿分)以上摂っていたグループでは、ほとんど摂らないグループに比べて、2型糖尿病の発症リスクは、男性で34%、女性で22%それぞれ低下したことが分かりました。

琉球大学の研究チームは、玄米に含まれる成分「γ(ガンマ)-オリザノール」に、インスリンの分泌を促進し、血糖値を下げる効果があることを明らかにしている。
γ(ガンマ)-オリザノール」にの栄養成分が脳の中枢に作用し、食欲を抑えることも解明しています。玄米を食べると、自然に食事の好みが変化し、食べ過ぎを抑えられるとのことで、玄米は食事制限として活用しやすい食品だと言えます。

玄米は、稲の果実である籾から籾殻のみを取り除いたもの。玄米の外皮は栄養価が高いです。精白米に比べ食物繊維が約6倍、ビタミンB1が約5倍、マグネシウムが約5倍多く含まれるます。
 

聖マリアンナ医科大学代謝・内分泌内科は、2型糖尿病患者37人を対象に、「もち米玄米」を8週間摂取してもらう研究を行った。その結果、24時間平均血糖値および食後血糖値が改善することが明らかになった。24時間の平均血糖値は、「白米」を摂取したグループでは144.2mg/dLだったのに対し、「もち米玄米」を摂取したグループでは126mg/dLに低下した。食後血糖値も改善した。
Terahata (2018)「「全粒穀物」が糖尿病リスクを低下 玄米を食べやすくする提案」日本医療・健康情報研究所

皆さんはGI値をご存知でしょうか?GI値とは、ブドウ糖を摂取した後の血糖上昇率を100としたときの、食品ごとの血糖上昇率を表す指標を「グリセミック指数(GI)」のことを言います。

全粒穀物はGI値が低く、食後の血糖変動が小さく、インスリンの過剰分泌を抑え、血管にダメージを与えにくいです。また、全粒穀物に含まれるフィトケミカルには抗酸化作用があり、細胞の老化を防いだり、血管の若さを保ち、動脈硬化の予防に役立ちます。

大豆が作り出すナットウキナーゼの効果

大西醗酵技術研究所の大西邦男所長によると、大豆は他の穀物の中でも違った特長を指摘しています。

大豆と塩、麹菌から作られる味噌。醤油と原料は似ていますが、発酵が中途半端で終わることが味噌の大きな特徴です。醤油は、発酵の過程で酵素がタンパク質をアミノ酸になるまでしっかりと分解しますが、味噌は発酵を中途半端に終わらせるので、アミノ酸まで分解される手前のペプチドが多く含まれています。

このペプチドが健康づくりに役立つもの。体内に吸収されやすくなるなど、身体によい働きをするものが多くあり、なんと血圧を下げる働きをするものもあります。また、ろ過の工程がありませんから、大豆が含む食物繊維や不飽和脂肪酸、ビタミンE、イソフラボンなどを丸ごと摂れるのも魅力です。
大西邦男(2018)「『発酵食品』の効果とは?味噌、ヨーグルト、納豆などが健康にいい理由とは?」太陽笑顔fufufu

また、大豆を発酵させることで得られるナットウキナーゼという酵素の摂取を推奨しています。ナットウキナーゼという酵素に血栓を溶かす働きがあるとされています。

大豆は三大栄養素がバランスよく含まれることに加えて、抗酸化作用があるビタミンE、カルシウムやカリウム、マグネシウムなどのミネラル、食物繊維、イソフラボンなどが含まれています。

八丁味噌と育毛効果の効果

名古屋Kクリニック院長の岡嶋研二氏の論文では、IGF-1という成長ホルモン(刺激を受けて分泌される成長因子のひとつ)が八丁味噌の摂取によって促され、育毛へ影響を与えると言及しています。

また、管理栄養士の松本和子さんは、八丁味噌に含まれる大豆イフラボンの中にある配糖体アグリコンによって育毛効果を高めると指摘しています。

参照:谷川渓(2018)「「「徳川家康の健康も支えた」八丁味噌で“髪の毛が生える”これだけの根拠!」アサ芸プラス,< https://www.asagei.com/excerpt/113669>

甘酒と美肌効果

甘酒とは米麹、米、酒粕を原料する飲み物で、日本では古くから「飲む点滴」と呼ばれています。もちろん、そんな貴重な飲み物ですから、研究も進んでいて、金沢工業大学は、市販の甘酒に、コレステロール低減と便通改善効果が高い成分が含まれていることを世界で初めて実証しました。

また、森永製菓は東京工科大学 応用生物学部 前田憲寿教授と共同研究を行い、甘酒に美容効果があることを明らかにしました。

「“酒粕と米麹が両方入った甘酒”の摂取で、健常な中年女性の毛穴のたるみや弾力、茶色いシミ、皮膚の赤みが改善したことから、“酒粕”“米麹”がそれぞれの機能を発揮し、肌のはりや色調に対して有効に作用したことが示唆された研究結果を得ました。」
(2018)「『酒粕と米麹を含む甘酒』の継続摂取で毛穴のたるみと肌の色調が改善」健康美容EXPO

森永製菓では、以前にも甘酒の研究の中で、「目の下のクマの改善」や「皮脂抑制作用」について、研究成果を発表しています。

また、これまでの穀物同様、甘酒は健康にも良いとされていますが、その中でも、米に含まれるプロラミンという水に溶けにくたんぱくしつに注目し、市販の甘酒を調査した研究があります。

それが金沢工業大の尾関健二教授と、岐阜県の発酵食品メーカー・厚生産業は、行った研究です。市販の甘酒14種類を40mlずつ遠心分離機にかけたところ、沈殿物からプロラミンを検出しました。

「米こうじと米のみから製造されている甘酒」が最もプロラミン含有量が多いことが判明した。プロラミンには、ヒトの消化器官内で消化・吸収されにくく、食物繊維と似たような「便通改善」や「コレステロール低減効果」があるとされるが、米こうじと米のみで作られている甘酒では、コップ1杯(約150ml)で十分な機能性を発揮できる量が含まれているという。」
(2018)「甘酒はスーパー飲料!便通・コレステロール低減・肥満抑制効果を実証」Hazard lab

穀物に関する様々な研究を見て、穀物をバランスよく摂るのが大事なのがお分かり頂けたかと思います。自然に揺らした食品を摂ること、摂る際は極端にならずに多様に摂取することを心掛けると、シンプルに健康を目指すことができます。

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